TPPを締結できるか ―日本国憲法から考える

日本国憲法はその制定過程に疑義があるが、陛下の御名御璽のもと、施行されたのであるから、現在の政府はそれを遵守しなければいけないことは当然だ。しかし今回TPPについての議論を憲法の論点から整理をしながら思うことは、憲法を国会議員が全く意識していないし、ましてや遵守など微塵もされていないことに愕然とする。条文は、
第九十九条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
つまり、政府関係者は尊重擁護する義務があるのだが、自らの権限範囲つまり既得権擁護の議論にしか終始していないことには悲しみを覚える。

まずTPPなどの多国間協定は名は協定だが国家間の約束であるから、条約法に関するウィーン条約で定義される「条約」である。
第二条 用語
1 この条約の適用上、
(a) 「条約」とは、国の間において文書の形式により締結され、国際法によつて規律される国際的な合意(単一の文書によるものであるか関連する二以上の文書によるものであるかを問わず、また、名称のいかんを問わない。)をいう。
さらに関税などの通商に関わる条約を通商条約といい、現在はWTO・GATTで規定されている。日本国憲法では、条約などの外交交渉は、内閣の専権事項である。
第七十三条 
三  条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
しかし、内閣は事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とするとあるように、締結した条約の批准は国会の権限になる。国会が批准しなければ国内的な効力は発生しない。

日本国政府は世界貿易機関を設立するマラケシュ協定を締結批准しWTOの構成国である。これは憲法の九十八条第2項の規定により国内法を改正して対処しなければならない。
第九十八条  この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2  日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
しかし憲法の条規に反する如何なる法律、命令、詔勅、及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しないとあるように、もし内閣が事後承認を要求した場合、締結した条約は国際的な効力を発生させるとされるのだが、国内的には無効だ。国会の承認がなければ国内的には効力を発生せず、法改正ができないわけだ。もし法改正を強行すれば九十八条違反の違憲となることは明白だろう。

条約の締結にはもう一つ重要な手続きがある。
第七条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一  憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
八  批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
最終的には陛下の認証が必要となる。国事行為というのは、儀礼ではない、よって陛下の認証が条約締結の最終規定となる。九十八条の第1項が条約よりも憲法優先の規定を定めていることは明白だが、学説的にも以下の論理から憲法は条約に優先する。
  1. 憲法98条2項は成立した条約の国内法的効力を認めてその遵守を規定しているが、条約と憲法との効力関係を必ずしも規定していない。
  2. 憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と憲法擁護の義務を規定している。
  3. 条約締結権は憲法が認めた国家機関の権能であるからその根拠となる憲法を変更することは出来ない。
  4. 憲法の国際主義は必ずしも条約の優位を導くものではない。
特に重要な反論が3.だ。憲法が組織した内閣や国会が、条約締結によって憲法違反濃厚な決め事があるからと言って、憲法を改正することは出来ないことは自明だ。実は実務も後者の学説に従い、憲法違反の疑義がある条約には一定の留保を要求している。例としては人種差別撤廃条約には表現の自由の観点から留保を行ったことがあげられる。

以上のようにTPPはGATT1条の例外であり、24条に拘束される条約であるから、その合意内容を国内的効力を発生させるために、国内法の改正が必要な場合は、憲法が規定する基本権を侵害的な法改正はすべて違憲立法となり、司法の違憲立法審査の対象となる。しかし日本の司法に与えられている付随的違憲立法審査権は、通常の裁判所が具体的な訴訟事件で手続き中、その訴訟の判決に必要な限りにおいて、違憲立法審査権を行使する制度をいう。第一義的に個別の憲法上の権利救済であり、それを通じて憲法規範の客観的保障もされるものである。

もしあなたがTPPを本当に阻止したいのなら改正される国内法が基本権侵害だという訴訟を起こす必要がある。国会の審議では内閣の肝いりである内閣法制局長官が改正される法は違憲ではないという参考意見を答弁するだろうが、内閣法制局長官には違憲判断をする権限を憲法は与えていない。

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