農協は必要か ―農業保護政策は農家保護ではなく、農林水産省OBとJA職員の保護にすぎない

この冬、北海道にずいぶん出張したのだが、その時聞いた話題を提供しようと思う。

北海道では後継者がなく、農業を続けられない農家が相当数あるようだ。高齢になると農作業は肉体的に大変なので、蕎麦などあまり手間のからない作物を作るようになるという。そのほとんどを長野へ販売しているようだ。長野で食されている蕎麦の半分以上は北海道産だとのこと。長野は蕎麦の産地ではなく消費地にすぎないということだろう。しかし、蕎麦作りも大変になると廃業ということになる。

農家が廃業すると困るのは何処だろうか?私達消費者?、もちろん私達も国産の作物が購入できなくなるのは困るが、一番影響をうけるのはその企業(農家)へ資金を貸し付けたり、機器や種苗を販売しているJAではないだろうか。

業績は当然ユーザー数に比例するからだ。農家の廃業は当然売上や利益の減少につながるだろう。しかしJAが大規模なリストラした、などというニュースを聞いたことはない。もしかするとJAバンクの大規模な広告活動は農家以外のユーザー獲得のための生き残り戦略かもしない。とはいっても、一番の顧客は農家だから、その農家の減少は業績の低迷につながっていると推測される。

ここからが本題だ。では彼らがどのようにして業績の向上に努力しているのだろうか。農家に資金を貸し付ける場合、農家を業績順にランク付けするとのこと。仮にA、B、Cとしよう。規模が大きく、後継者いて、安定した生産量がある農家はAランク、一方、規模も小さく、生産品も安価な農家はCランクとしよう。

当然Cランクの農家の金利はAランクの農家の金利より高く、農家の最終的な利益に大きく影響する。

貸し付ける側としては貸し付ける相手が多ければAランクの低金利で貸し付けても、ユーザー数が多いので金利収入は一定規模になる。長年、安定した収入を得られていたが、ここへきての農家の廃業は、そういったベースに大きな打撃を与えていることは予測可能だ。ユーザー数が減少傾向にある場合どうすればいいのだろうか?一つが先ほどいった、一般顧客の獲得だろう。

かなりの規模で広告宣伝をやっているのはそういうことだろう。しかし私達のような一般消費者が、JAバンクに口座を開設するとは、あまり考えにくい。上から業績維持を厳命された、あなたが担当者だったらどうするか?

答えは簡単、既存ユーザー(農家)から今までより多く利益を上げればいいわけだ。Cランクの金利がAランクより2倍高いとする。単純計算すれば、ユーザー数が半分になっても、すべてのユーザーの金利をCランクにすれば収入は維持できる。

しかしある日突然、金利を引き上げることなど出来きないし、法律もそれを禁じている。よって新規に貸し付けるときの査定でそれを実行することになる。

これは実話だそうだが、5年前、1,000万で購入した機器が、償却したので再度購入するとして、決算書は5年前と変わらないにもかかわらず、なぜか赤字経営なので、Cランクと判定されたという。農家はこの5年間赤字となったことがなく、納得がいかなかったので友人に相談する。

その友人は決算書とCランクと判定された書類を見て驚いたという。1,000万円がそのまま単年度に負債と判断され、それまでの黒字経営から赤字と判断されているという。通常、1,000万で機器を購入すれば、負債1,000万=資産1,000万、そのうち自年度分を償却して、5年で負債0=資産0となるはずだが、単年度で負債が1,000万と解釈して赤字経営、よって金利をあげる、と書いてあったという。経理を知っている人であればすぐに分かることにもかかわらず。農家とその友人はすぐに抗議に行く。

担当者の対応は一律に「上の意向」ということだったので、農家とその友人は理事に直談判をしたという。決算書の解釈がおかしいこと、経営が厳しい上に、金利まで上がっては到底農業は続けられないということなどを訴えると、その理事は渋々「じゃぁAに戻しますよ」と訴えを承諾したという。

ここまで話を聞くともう江戸時代の悪代官と農民のような話だが、JAは一定の基準により貸し付けの金利などを審査しているのではなく、理事等上層部の独断で決定しているということに驚愕する。おそらく、農家の減少で、JAの経営も厳しいのだろう、少しでも金利で稼ごうという意識は見え見だ。

TPPなどの自由貿易協定で、農家も打撃を受けるだろうが、もっと深刻なのはその農家に寄生するJAなどの上層部だろう。政府が規制を減らせば、管理物件が減少して人員があまる、と同じことがJAにも適用され、保護がなくされれば食いっぱぐれるのは、寄生しているJA職員の方だからだろう。

さらにもう一つ話を紹介すると、長野県や北海道でも農業プラントが建設されつつあるという。これは大資本が農地を買い上げて、生産者をその企業と同じ待遇で雇用し、生産をさせるというものだという。

本社で働く従業員と同じ雇用条件が適用され、労働基準法の保護を受けた労使関係によって農業に従事するということだ。農閑期にはその企業の別の業務をあてがうので、企業も採算がとれるという。商社やメーカー、小売大手などが行政と連携して運営されているという。この影響でUターンやIターン就職が活溌化しているということも首肯ける。

しかし全国的にはこのような動きはそう活発ではないということでだ。なぜもっと活発化しないのかは単純、私がこの話を伺った地域では、JAが土地の買収を邪魔しているということだった。それはわからないこともない、ユーザー数の減少は彼らにとって死活問題だからだ。

大手資本が入れば、資金から種苗の調達まで独自で行い、JAの出る幕はなくなる。そうなれば天下り理事達の定年から年金支給までの約10年の保障がなくなる。もし貿易が自由化され、様々な補助金がなくなり、個人農家の経営は厳しくなるだが、作物をつくるという技術者と考えれば、そのナレッジは農業を行おうとする企業にとっては必要だろう。必要ないのは農家に寄生して鉛筆をなめなめしていた人達だ。

しかし、自由貿易によって安価な食品が流通することが、消費者の利益になるかは別の問題だろう。輸入食品は腐敗などを防止するために、防腐剤などの薬品が使われる。外国の農薬使用の基準や遺伝子組み換えの基準なども私達の食文化に合致するとは限らない。

つまり今の関税による農業保護政策は、農林水産省の官僚と、農家に寄生するJA天下り幹部に老後資金を提供するためであり、決して農家や生産者への保護ではない。ましてや消費者向けの保護政策でもない。自給率を訳の分からないカロリーベースという方式で計算し、それを向上させるという名目で補助金を分捕るのだ。

私は関税による保護では、私達の食の安全と自給率アップは望めないと考えている。TPPなどの自由貿易交渉での、WTO加盟国である日本の見解は、関税撤廃基準として輸入量の90%ということを提示している。

現在そのほとんどを聖域5品目で専有している。10%をもっと保護を必要とする分野の製品にすることで、過去のトヨタ、ソニーのような世界的企業ができる可能性もある。我が国は米以外の食品に関し関税を撤廃し、その保護を成長分野に振り向け、食品の安全性は厳しい安全基準で任せたほうが良いのではないだろうか。

経済産業省や農林水産省による関税保護より、厚生労働省、消費者庁による安全基準によって、食品の安全を確保することが重要だ。おそらくそういう厳しい基準のほうが、農業従事者にとっての矜持となり、やりがいとなるだろう。困難に敢然と立ち向かうことは日本人の美徳の一つだからだ。

JAに掲げられるTPP絶対反対!の横断幕は彼らの断末魔に聞こえるのは僕だけだろう。

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