朝鮮人民軍の実力


北朝鮮軍事の組織

2010 年 11 月 23 日、韓国が黄海上の軍事境界線と定める北方限界線 (NLL)に近い韓国西方沖の延坪島と周辺の黄海水域に、北朝鮮側が砲撃。100発以上が着弾し、民家が炎上。韓国軍も80発以上を応射。韓国軍の兵士2人と民間人 2 人の計 4 人が死亡、兵士 16 人、民間人 3 人の計 19 人が重軽傷を負った事案は、韓国の世論にのみならず、日本の世論も激高させる事になった。

行進する北朝鮮人民軍女性兵士
2002 年の小泉訪朝により、一時政権与党でもあった日本社会党は、朝鮮労働党との友好関係の実態が知られることになり、解体の原因ともなった。朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法第 11 条には「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮労働党の指導の下にすべての活動を行う」と規定されており、朝鮮労働党は国家の行政機構より上位にあって、事実上の一党独裁制を現在でも堅持している。

党の最高ポストは総書記で、現在は金正日である。1998 年の憲法改正で国防委員会が事実上の国家の最高指導機関と位置づけられ、金正日は党軍事委員会とともに国防委員長であり、事実上の北朝鮮国家の最高権力者である。朝鮮人民軍は「党の軍事政策を遂行する方策を討議・決定し、朝鮮人民軍をはじめとする武力全般の強化と軍需産業の発展に関する事業を指導し、我が国の武力を統括する」として、党中央軍事委員会隷下に置かれており、党規則上は党の軍隊である。統帥権は国家機関の国防委員会にあるために実質的には金正日「首領の軍隊」と言える。



朝鮮労働党の軍事組織

軍事組織は複雑で国防委員会の隷下に人民武力部と国家安全保衛部が置かれている。また内閣の隷下には人民保安部(警察機構)がある。人民武力部の隷下に総政治局、総参謀部、保衛司令部がある。総参謀部隷下に三軍がある。党中央委員会は中央軍事委員会を通じて総政治局に影響力を持ち、間接的に三軍に影響力を行使する。

北朝鮮国家は運営の全てを党の指導のもとに行うことになっているのだが、現在では形骸化しているようだ。実質的には国防委員会が実質の最高意思決定機関であり、1998 年の憲法改正では国家主席が廃止され国防委員長が国家最高職となった。よって国防委員長兼人民軍最高司令官である金正日一人に決定権が集中している。

人民武力部は国防省にあたり、軍事全般を統括して、対外的には軍事部部門の代表機関であるが実質的には総参謀部が陸海空の三軍を指揮する。

参謀部には作戦、偵察、工兵、通信、科学、軽歩兵教導指導、砲兵教導指導、隊列補充、幹部、機務、地質、兵器、軍事動員、軍事発展、軍事訓練、核化学防衛、指導自動化の各部局がある。しかし戦時には人民武力部に指揮権はなく最高司令官の金正日が、最高司令部を通じて全部隊を直接指揮する。

総政治局は実質人民武力部と同列であり、徹底した監視が行なわれる。北朝鮮では人民の蜂起による体制転覆は考えられないが、唯一その可能性を保持しているのが軍であるからだ。総政治局には金正日の側近中の側近が配置されている。それらの側近以外は党のどの組織も軍に干渉できないよう政治統制を一本化している。

保衛司令部はクーデターの防止を目的に軍内の厳重な監視体制を行っている機関である。中隊レベルに指導員を小隊レベルに情報員を配置し、監視、動向分析、指導を行っている。

朝鮮人民軍の組織

朝鮮人民軍の地上軍は約 100 万と言われ、第 1 軍団から第 12 軍団の 12 個軍団と平壤防衛司令部、4 個機械化軍団、2 個砲兵軍団、1 個戦車軍団である。

海軍は東海艦隊の 6 個戦隊と西海艦隊の 10 個戦隊、計 16 個戦隊を保持している。地理上の制約で両艦隊による連携した作戦は行えない。総兵力は約 6 万人であり、水上戦闘艦(警備艇、ミサイル艇、魚雷艇、火力支援艇)が 430 隻、潜水艦 24 隻、小型潜水艇を含めると  90 隻を保有している。

その他、上陸艦(挺)を  270 隻、その他艦艇を 200 隻保有している。特に 2 個海上狙撃師團を保有し、エアクッション艇を 140 隻配備している。エアクッション艇は国産で 1 隻で特殊部隊 1 個小隊を奇襲上陸させる能力がある。

空軍は戦闘機 790 機、爆撃機 80 機、支援機 520 機、ヘリコプター 320 機を保有し、6 個飛行師團総兵力 8 万人である。主力戦闘機はMiG-15、MiG-17などが 45 %、その他MiG-19、MiG-21、MiG-23、MiG-29である。MiG-29などの新鋭機は 60 機程度である。

朝鮮人民軍の士気

しかし脱北軍人の証言では試作として造られたMiG-26やMiG-32といった偶数番号の戦闘機を多数保有している。また氣球やハンググライダー部隊も創設されていて、特殊工作員を氣球やハンググライダーでレーダーに察知されず韓国本土へ侵入することが出來るとされている。

餘談であるが戦闘機パイロットは沖縄の米軍基地を攻撃するときはイカ釣り用の道具が支給されるという。燃料がもたなため墜落したときはそれで生き延びて工作にあたれということらしい。この他に朝鮮人民軍は 12 万 2 千人という世界最大規模の特殊部隊を保有している。特殊部隊は食料の配分もよく、給料は 2 ~ 7 倍だと言われている。

1996 年に発生した江陵潜水艦座礁事件では逃亡した 26 人の乗組員の搜索に韓国政府は 9 月 18 日から 11 月 7 日、1 日 6 万人を動員して掃討戦を展開したが全員を逮捕できず、DMZ まで 10 キロの地点まで到達され、工作員は逃亡中に韓国軍司令部や橋梁などの撮影をしており、その野力と士氣の高さをしめした。朝鮮人民軍の常備軍総兵力は 114 万人で、これに韓国軍 67 万人、在韓米軍 3 万 5 千人、自衛隊 24 万人が 38 度線を挟んで対峙している。

朝鮮人民軍の実力

私は、朝鮮人民軍が「世界最強」と思っている。その説明を以下にする。

極東の軍事バランス

朝鮮人民軍は確かに、韓国軍、在韓米軍、自衛隊を合計した兵力数より大きいが実質な装備は旧式化したものが多く、燃料不足で訓練もままならないという。例えば空軍のパイロットなどは年間数十時間しか飛行できないとも言われている。そのような中、核ミサイル開発にはふんだんに予算をかけている。

朝鮮人民軍のミサイル師団

1999 年にミサイル師団を部隊から格上げして編成している。北朝鮮弾道ミサイルの最高機密―標的は東京! 李福九著 (徳間文庫)は北朝鮮の軍事通信技術者としてミサイルの制御に関わった脱北将校の著書だが、北朝鮮のミサイル技術は我々日本人が想像する以上に高度であり、進んでいると言わざるをえない。

朝鮮人民軍が保有するミサイルはスカッドミサイル、ノドンミサイル、テポドンミサイルがあり、射程 300 キロのスカッド B と射程 500 キロのスカッ  ドC が合計 600 基、射程 1,500 キロのノドンミサイルを 200 基保有し、射程 12,000 キロのテポドン 3 号がまもなく完成すると言われている。



先出の著書の作者は北朝鮮が開発しているテポドンミサイルは射程 1,200 キロ 3 段液体燃料などではなく、全長 32 メートル、射程 4 万キロ 9 段式固定燃料ロケット装備で彈頭は9個の小型ミサイルで 1 発で米国主要都市を破壊できるという。

大型ミサイルは地下発射台に格納されており、中朝國境側の基地に配備されているという。スカッドミサイル用にはTEL(Transport Erector Launcher :運搬・起立・発射車両)を 30 両配備している。これらの移動発射台には日産ディーゼルの大型トラックが転用されたと米国防情報局(DIA)の文書から明らかになっている。

移動式発射台のスカッドミサイルは韓国内を、中朝国境付近のミサイル基地に配備された、射程 1.500 キロのノドン 1 号は東京を射程内に、地下発射台に配備予定のテポドン 3 号は米国を射程内に入れていることになる。我國と韓国はこれらのミサイルに対抗するためイージスシステム搭載艦および PAC-3 を導入している。

ミサイル迎撃にはイージス艦による中間飛行局面破壊が理想であるが、米軍の通信はリンク 16 を使用しており、我國をはじめ米国の同盟國はリンク 11 を使用しているため細部に渡る迅速な指揮統制が出来ないでいる。

しかし現段階では米韓軍、米国第 7 艦隊、自衛隊の装備、練度は朝鮮人民軍を圧倒していると見方が強い。―唯一自衛隊の実戦経験の無さ、日本の法制上の不備は米韓日にとって致命傷になりかねない。ではなぜ筆者は朝鮮人民軍を世界最強としたのか、それを説明する。北朝鮮は 1960 年代から人民武装化政策によって、大規模な準軍事組織を構築している。4 歳から 60 歳までを動員対象として年間 15 日から 30 日間の訓練を実施している。

教導隊は 17 歳から 45 歳(女性は 17 歳から 30 歳)で組織され、有事には正規師團の増援、平時には後方の防衞が任務である。総兵力は 170 万人と言われている。退役軍人も編入されるのでほとんど正規軍と変らないと言える。火氣は AK 銃を 100 %装備し 82 ミリ、120 ミリ、76.2 ミリ砲、対空砲などを装備、正規軍の 80 %程度の兵器保有である。訓練は野外戦術、総合訓練、兵科別訓練、合同演習などで動員訓練 30 日、自衛訓練 10 日の年間 320 時間である。

労農赤衞隊は 1959 年に創設され、46 歳から 60 歳の教導隊除隊者を対象に労働者、事務員等で職場単位毎に組織され、指揮官には労働党責任書記があたり、動員時には個人用として AK 銃が支給される。また機關銃、高射砲、迫撃砲などが部隊単位に支給される。通常の予備役である。訓練時間は動員訓練が年間 240 時間、自衛訓練が 120 時間(両方で30日間)、定期訓練を月 1 回以上実施している。兵員数は 400 万以上と言われている。

赤い青年近衛隊は満 14 歳から 16 歳の高等中学校  5年、6 年の男女を対象とした軍事組織である。学校単位で中隊や大隊が編成され夏休み等の 7 日間の集団訓練と、年間160時間の校内軍事教育訓練を実施している。訓練には AK 銃を 100 %、共用として機關銃、迫撃砲が支給される。主要な任務は反革命分子の排除、北朝鮮政権の親衛隊としての先導的役割、有事には初級幹部の予備隊及び決死隊として任務を遂行する。兵力は約 100 万人である。

これら約 800 万人の準軍事組織の他、国境警備隊、海岸警備隊などの警察組織も正規軍並みの訓練を実施している。金正日の護衛には護衛司令部 5 万人があたり、さらに労働党中央委員会護衛部第六処所属の要員 1200 名は密着して警備に当たっている。

何らかの要因で北朝鮮が軍事行動を始めるとすればまず、スカッドミサイルや 122 ミリ榴弾砲による集中攻撃であろうが、DMZ の突破には最低 1260 発 27. 5トンの彈藥が必要とされている。しかしこれでもDMZ付近に配置された韓国軍を全滅に追いやることは困難だろう。韓国軍に 30 %の損害を与えるには、10,4615 発、2280 トンの彈藥が必要だという計算もある。

これらの攻撃の間には韓国軍のミサイルや第 7 艦隊潜水艦からの対地ミサイル、艦載機による爆撃などで、瞬く間にミサイル基地は叩かれるであろう。當然朝鮮人民軍の空軍などは米韓軍の航空戦力の前に手も足も出ず、制空権は韓国側が取得するはずである。

最大の脅威はテポドンミサイルである。先出の脱北技術者李福九はミサイルの命中精度を上げるため日本国内に潛伏させている、工作員が米軍基地や原發に誘導装置を取り付ける計画であると言っているが、イージス艦からの発車直後の迎撃によって、これらもそれほど脅威にはならないであろう。これらの近代戰では朝鮮人民軍は米韓日の前には歯がたたないのである。

軍事施設は地下にあり爆撃に対しかなりの生残性を有するであろうが、彈藥や食料には限りがあり補給が途絶えた状態では戦闘にならないであろう。ではなぜ世界最強か、それは説明したとおりの準軍事組織なのである。北側を占領進駐した米韓軍は市民の顔をした兵士と対峙することになるのである。北朝鮮人民は拳銃を所持していて、その撃ち方の訓練を受けている。そして 14 歳の学生も機關銃や迫撃砲の扱いを知っていて、60 歳まではほど現役の兵士同様な訓練を受けているのである。

そのなかにたかだか 70 万程度の人数が進駐しなければならないと考えると、イラクの比ではないゲリラ戦が展開することは明らかであろう。その中には 14 歳の女性兵士が米軍兵士や韓国軍兵士に射殺される映像がインターネットを通じて世界に配信される。米國や韓國、我國の世論はそれに耐えられるであろうか。また國民 3 分の 1 が予備役とは言え一般人民もおり、解放を喜んで受け入れる人民と徹底抗戰を誓う人民をどう見分けるのか。一般人の殺害も相当多数行われる筈である。それに世界の世論は耐えられるであろうか。すべての答えはおそらくノーである。

その他12万7千の特殊部隊は高度に訓練されており、これらが韓国国内、日本国内などに潜伏して破壊活動を開始したらどうであろう。かれらは生物化学兵器を使用するかもしれない。こう考えると近代戰では圧倒的に勝利してもその後に展開される肉彈戰では文明国である日韓米は、国家的なアルカイダ国民皆兵国家北朝鮮に歯がたたないと考えるのが妥当でなないだろうか。

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